福岡共同公文書館は、福岡県と県内全市町村(政令市を除く)が共同で設置・運営する公文書館です。

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過去のイベント情報

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特集 公文書と害虫~螟虫防除からIPMまで~

開催期間 令和2年10月6日(火)~12月27日(日)
場 所 福岡共同公文書館 1階展示室

内容

【Web展示】
 特集「公文書と害虫」
     ~螟虫防除からIPMまで~

 
 公文書を「永久に保存する」ために、害虫やカビから資料を守ることも公文書館の大事な使命です。歴史公文書だけでなく、古文書や絵画などをはじめとした文化財保存の分野では、近年、化学薬剤だけに頼らない、予防を中心とした生物被害対策である


  IPM(Integrated Pest Management)
  総合的有害生物管理


という考え方が普及してきました。

 今回の特集では、文化財分野の生物被害対策と、福岡共同公文書館の取組について、当館所蔵の資料を中心にご紹介しています。
 
 ※画像はクリックで拡大できます。

 IPMの考え方については、ブログにて詳しく説明しておりますので、ぜひこちらもご覧ください。

総丈量野取図帳(松末村) 虫損資料


虫損(ちゅうそん)資料(シバンムシによる食害)

 和紙に墨で書かれた資料は、水や湿気には弱いですが、正しく保存すれば1,000年以上の寿命を持ちます。この資料は、130年以上前の野取図(のとりず;土地の面積や場所、所有者を記録した図帳)です。激しいシバンムシの食害を受けた部分以外は、図面も文字もはっきりと読むことができます。
 歴史公文書として公文書館に受け入れる際には、目視点検によって、虫や卵、糞、カビなどを取り除き、ガス燻蒸(くんじょう)による殺菌殺虫殺卵処理(さっきんさっちゅうさつらんしょり)を行います。燻蒸後は、残った汚れを可能な限り取り除き、保存庫に入れた後も、利用の際や定期点検のつど、状態を確認します。必要な手当てを過不足なく行い、環境管理を行うことが、資料保存業務の原則です。

 虫損資料についてさらに詳しくご覧になりたい方は、当館のブログもぜひご覧ください。
福岡県における螟蟲駆除豫防の沿革(表紙) 福岡県における螟蟲駆除豫防の沿革(本文)

螟虫(めいちゅう;ニカメイガ・サンカメイガ)vs. 福岡

 明治の福岡県での稲作<害虫>螟虫の駆除予防についてまとめた資料です。福岡の農業の発展に尽力した老農たち、益田素平(八女郡二川村)、佐野貞蔵(三潴郡八丁牟田村)らの熱心な活動や、県令(けんれい)をはじめ郡指導者層の反応、まだ害虫という考え方が定着していないままに強制される予防策への反発から起きた、筑後稲株騒動(ちくごいなかぶそうどう)について知ることができます。
 付録の『螟虫実験説』は未刊行の益田素平の遺著です。あらゆる方法を用いて、農家の負担を減らしながら螟虫・ウンカ・カメムシを防除する方法はないかと探り、農業に従事する人たちに伝えようとした老農たちは、IPM(総合防除)の先駆者と言えます。

 この資料は国立国会図書館のデジタルコレクションで読むことができます。
二川村会決議録 八女郡二川村役場(表紙) 二川村会決議録 八女郡二川村役場(本文)

二川村会決議録 八女郡二川村役場

 明治22年、益田素平は二川村の村長に就任します。明治政府による「害虫予防法」が公布された明治29年、福岡県令に基づき、二川村会は「苗代田並植田螟虫駆除規定」を制定しました。行政区ごとに取締人を選び、村の直営事業として苗代田(なわしろでん)の採卵と捕蛾とその買上、枯茎採取の夫役雇入れが行われました。
 6月の村会では取締人を各区1人としている部分が要検討事項だったようで(→当館デジタルアーカイブ)、7月の「手続き」では訂正が加わって各区2人とされています(→当館デジタルアーカイブ)。

 この資料は当館のデジタルアーカイブで読むことができます。(「デジタルアーカイブ」をクリックすると、当館のデジタルアーカイブのページが開きます。) 
主基齋田の経過概要(表紙) 主基齋田の経過概要(本文)

主基齋田の経過概要(本文) 主基齋田の経過概要(本文)

主基齋田(すきさいでん)の経過概要

 昭和の主基齋田は、農業先進県福岡の威信をかけた、失敗できない無農薬米づくりでもありました。塩水選(えんすいせん)、短冊苗床(たんざくなわしろ)、正条植(せいじょううえ)、捕蛾採卵(ほがさいらん)、誘蛾灯(ゆうがとう)、犠牲田(ぎせいでん)、注油駆除(ちゅうゆくじょ)など稲作<病害虫>についての明治期の”守りの防除”の集大成ともいえます。
 当館では、平成27年度に主基齋田に関する資料を展示した企画展「昭和の主基齋田」を開催しました。『主基齋田の経過概要』の他にも、当館所蔵の資料『主基齋田日記』(福岡県公文書;1-1-0030537)では、螟虫、浮塵子(うんか)、椿象(カメムシ)をとったという記録を読むことができます。

 この資料は当館のデジタルアーカイブで読むことができます。(「デジタルアーカイブ」をクリックすると、当館のデジタルアーカイブのページが開きます。) 

 また、福岡県立図書館デジタルアーカイブ(映像)では、映画フィルム「大嘗祭悠紀主基斎田」を見ることができます(苗代の螟虫防除を行っているところは08:33から)。
農務事蹟(表紙) 農務事蹟(本文)

農務事蹟

 稲のウイルス感染によっておこる稲熱(いもち)病についての福岡県内各郡の被害(→当館デジタルアーカイブ)や、貯蔵穀物につく害虫(コクゾウムシなど)に対する二硫化炭素燻蒸(ポストハーベスト処理)の効果(→当館デジタルアーカイブ)が報告されています。二硫化炭素燻蒸については、その普及に向けた計画も進められていました。

 この資料は当館のデジタルアーカイブで読むことができます。(「デジタルアーカイブ」をクリックすると、当館のデジタルアーカイブのページが開きます。) 

燻蒸(くんじょう)とは
 施設内などに気化させた薬品(ガス)を充満させ、殺菌・殺虫を行う処理のことです。この公文書に登場する二硫化炭素は引火性が強かったため、第一次世界大戦後は、その代替として、毒ガスから殺虫剤に転用されたクロルピクリンが穀物燻蒸や土壌消毒に使われるようになります。
 ちなみに、成層圏のオゾン層を破壊する作用があるため、1997年のモントリオール議定書で先進国での2005年までの全廃が決議された臭化メチルも、土壌燻蒸や輸出入の植物検疫、文化財燻蒸等に広く利用されていました。
蚊とハエをなくすために(表紙) 蚊とハエをなくすために(本文)

蚊とハエをなくすために(本文) 蚊とハエをなくすために(本文)

蚊とハエをなくすために

 <衛生害虫>とは、ノミ、ダニ、シラミ(チフス)、蚊(日本脳炎、マラリア、デング熱など)、ハエ(赤痢、コレラ、腸管出血性大腸菌O-157など)などの感染症を媒介する昆虫のことです。伝染病予防法(昭和30年)制定以降、組織的な衛生環境の向上は住民の義務、衛生害虫やそ族(ねずみ)の駆除は市町村行政の仕事として位置づけられ、「蚊やハエは不衛生」との意識が根付いていきます。
 第二次大戦後、感染症が流行しやすくなってしまった衛生環境を改善するため、昭和25年「環境衛生モデル地区」制度(厚生省)による、蚊とハエの駆除事業が行われています。昆虫が発生する溝の掃除やDDT(有機塩素系殺虫剤)散布が組織的に進められ、科学的な知識の普及も図られました。
衛生行政の概要(表紙) 衛生行政の概要(本文)

衛生行政の概要(本文) 衛生行政の概要(本文)

昭和44年 衛生行政の概要

 昭和44年(1969)に環境衛生改善事業として実施された、ねずみ駆除や日本住血吸虫(にほんじゅうけつきゅうちゅう;ミヤイリガイ)駆除の薬剤(PCP)の使用量、面積などの調査結果、溝渠(こうきょ)コンクリート化の延長などの対策について記録された資料です。農薬パラチオンによる事故・自殺の増加等についても報告されています。
 直後の1970年前後には、有機水銀剤(いもち病・殺菌剤)、パラチオン(ニカメイチュウ・殺虫剤)、DDT・BHC・ドリン剤(殺虫剤)、PCP(除草剤)といった農薬は、毒性が強い、または長く分解されず自然界に残り環境や生物に影響を与えるという理由で販売禁止・使用禁止となります。
 昭和20年代後半から多用され、病虫害に左右されない生産の安定と食糧増産に貢献した化学農薬でしたが、残留農薬の人体への影響をはじめ、生物濃縮、リサージェンス、抵抗性害虫の発生など、新しい問題が起こったことで、農薬の取締や啓発、環境監視、食品検査、減農薬、環境保全の推進など、農薬への過度の依存から抜け出す動きが始まります。
農林試ニュース 普通作病害虫・雑草防除の手引き

農林試ニュース

 福岡県農林業総合試験場での研究成果は、年報や特別報告という形でも刊行されています。IPM、環境保全型農業、天敵による生物防除、品種改良、難防除害虫への取り組みなど、専門的なトピックをカラー版のニュースで読むことができます。
 福岡県農林業総合試験場のWebページから最新号を見ることができます。研究成果の報告も見ることができますので、興味のある方はぜひご覧ください。
 また、展示室に展示している『病害虫・雑草防除の手引き』の最新版(令和2年度版)も、9月2日に公開されています。
筑前町史 資料編(表紙) 筑前町史 資料編(本文) 筑前町史 資料編(本文)

筑前町史 資料編 筑前町の植物と動物

 筑前町の豊かな自然と、生態系を構成する動植物の調査の成果を、美しい写真とともにわかりやすく紹介してあります。

 レイチェル・カーソンは『沈黙の春』(1962)のなかで、アメリカのDDT使用による生態系への影響を、(農薬の生物濃縮によって数が減少した)春が来ても歌わない鳥たちを通し訴えました。水田の多い日本では、BHCなどの使用による蛍やメダカの減少の方が実感されていたかもしれません。

 現代、川や農業用水路はコンクリートで固められてしまいましたが、ホタルや食物連鎖を底辺で支える無数の小さな昆虫や生物は確かに存在しています。ヒトとこれらの生物たちが共存するこれからの町の生態系をイメージすることができる、とても素敵な資料です。この資料は、当館の閲覧室でご覧いただけます。


 また、福岡県の生物多様性に関連した資料もご紹介します。

 『福岡県の希少野生生物 福岡県レッドデータブック2014<普及版>』(福岡県行政資料;2-1-0025590)
  ※福岡県環境部のレッドデータブックのサイトからは、希少生物が検索できます。

 『福岡県侵略的外来種リスト2018』(福岡県行政資料;2-4-0009217)
  ※こちらも、県のホームページから見ることができます。
福岡共同公文書館の文化財IPM 福岡共同公文書館の文化財IPM

福岡共同公文書館の文化財IPM

 最後に、プロの力もお借りしながら、当館が実施している生物被害対策の様子を少しだけ紹介します。

 公文書館に歴史公文書として受け入れられた資料は、クリーニングと燻蒸(酸化エチレンガスによる殺虫殺卵殺菌処理)を行ったのち、温度22~25℃、湿度55~60%の資料保存のとって、最適な状態を保つよう制御されている保存庫で保管されます。保存庫に入れたあとの資料に対して薬剤を使うことは基本的にしていませんので、業務委託先のプロフェッショナルの皆さんの力をお借りしながら、日々資料の置かれている環境を見守っています。

 当館のIPMの取り組みについては、ブログにて紹介しております。ぜひこちらもご覧ください。
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