食欲の秋ですね、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今回は、常設展秋のミニ特集「公文書と〈害虫〉」より、虫たちの旺盛な食欲で食べられてしまった資料のお話です。虫の写真が出てきますので、苦手な方はご注意ください。
公文書館に移管される以前に、長い年月保管されている中で、劣化や災害、虫害などにあってしまった資料もあります。和紙に墨で書かれた資料は、水や湿気には弱いですが、正しく保存すれば1000年以上の寿命を持ちます。文化財害虫による食害を受けた状態で入ってきた資料も、大切な情報を持っています。また、そのままの姿の原本(一次史料)を保管しているからこそ、記録されている情報が証拠としての価値をもつ証明の一助にもなります。
歴史公文書として受け入れる際には、目視点検によって、虫の死骸(生きた虫は出てしまった後のことが多いです)や蛹、卵、糞、カビなどを取り除き、ガス燻蒸による殺菌・殺虫・殺卵処理を行います。燻蒸後は、残った汚れを可能な限り取り除き、保存庫に収蔵します。保存庫に入れた後も、利用の際や定期点検の度に、状態を確認し、必要な手当てを過不足なく行い、環境管理を行うことが、資料保存業務の原則です。
秋の特集展示、公文書と〈害虫〉では、通常は資料への負担をなるべく減らすために、保存庫からほとんど出すことがない、虫損(ちゅうそん)をうけた公文書をご紹介しています。
虫損資料カルテ①シバンムシによる食害 (シバンムシ写真提供:有限会社アトム商事)
『総丈量野取図帳(松末村)』朝倉市公文書 明治21年度(1896)(1-2-0025431)
この資料は、野取図といって、土地の面積や場所、所有者を記録した図帳です。130年以上前のものですが、激しいシバンムシの食害を受けた部分以外は、図面も文字はっきりと読むことができます。
本の虫といえば、澱粉のりのついた表面を舐めるように食害する紙魚(シミ)が有名ですが、このようなトンネル穴が開くことはありません。実はシバンムシ類,なかでもフルホンシバンムシとザウテルシバンムシによる被害が最も多く、甚大だそうです。
シバンムシは表紙面に丸い穴をあけ、そこからトンネル状に紙を食べ進んでいくので、無数の穴が開いています。さなぎになる前に抗道をはりめぐらせ、穴の周囲を唾液と糞で固めるのでページが開けなくなることもあります。国内の書籍や古文書の代表的な害虫です。水濡れや湿潤な史料を好み、カビの繁殖した史料に群集して加害することも多く、紙資料を保管する館では、要注意の虫です。
虫損資料カルテ②意外と多い、ゴキブリ被害だが…
『大正5年度 支払證憑書会議費』桂川町公文書 大正5年度(1916) (1-2-0023519)
この資料も、虫食いと思われる穴がありますが、先ほどのものと比べると、かなり大きいです。
最初に可能性を疑ったのが、ゴキブリです。
和紙・洋紙問わず、意外と多いのが、ゴキブリによる被害です。雑食性で繁殖力が強い上に、糞には集合フェロモンがあるため、資料を汚すだけでなく、仲間を呼び寄せてしまうという厄介な虫です。
受入の点検時に、カプセル状の穴にゴキブリの卵鞘がそのまま入っていた資料もあったそうですが、穴だけが残っていて、虫は出てしまった後ということの方が多いです。
他の昆虫の可能性もあります。写真の穴は、卵管などで産み付けられた卵から孵った幼虫が食い進んで、広くなっているところで蛹になり、出ていったと考えることもできるそうです。
虫損資料カルテ③カビと虫の連続攻撃 (チャタテムシ写真提供:有限会社アトム商事)
『村会事蹟(高田村)』みやま市公文書 昭和29年度(1954) (1-2-0036286)
この資料は、表紙はとくに損傷はないのですが、裏がえすと表面を削るような食害のあと、内側にも虫食いがあります。さらに、水損(水濡れ)とカビのあともあり、虫の糞の様なものもはりついています。
はっきりわかるのは、湿気があったということ。まず資料の裏表紙側に水濡れがあり、しかも土などが付着してしまうような状況があり(泥の場合も)、次にそこからカビが発生したこと。さらに、カビを好むチャタテムシなどが集まってカビだけでなく表面も食害し、さらに、シミやその小さな虫を食べる虫もきたかもしれません。
そんな状況にも負けずにを生き残った、サバイバル資料です。
ちなみにこの資料には、害虫駆除についての事蹟も入っていて、今回の展示にとっては、絶対に外せない資料となりました。
いかがでしたか?虫損をうけながらも生き残り、当館に託された資料たち、大切に守って将来の世代にも見ていただきたいです。
福岡共同公文書館では常設展の一部を入替、秋のミニ特集「公文書と〈害虫〉」がご覧いただけます。Web展示で一部資料をご紹介しておりますので、そちらもどうぞ。