『公文書でめぐる ふるさと福岡』今回は、大木町をご紹介します。(大木町HP)
三潴郡大木町は、福岡県の南西部、筑後平野のほぼ中央にあって、山ノ井川、花宗川の沖積で形成された肥沃な土地、豊富な水に恵まれた穀倉地帯です。
筑後川下流左岸地域にあるこの地方は、古代「水沼の縣」とよばれる沼地で、鎌倉時代末期ごろ「水沼」が転じて「三潴」荘になったといわれています。立花氏の柳河藩時代、有馬氏の久留米藩時代を経て、明治4年の廃藩置県により、久留米・柳河・三池の三県が合併して三潴県となり、明治9年(1876)三潴県を廃して福岡県となりました。
明治22年(1889)町村制が施行され、旧来の村々が合併して大溝村、木佐木村、大莞村となり、昭和30年(1955)市町村合併促進法に基づき、この3村が合併して大木町になりました。町名は村民から募集し、協議で絞られた「大木」「木佐木」「花井」から全村民投票で決定したそうです。
平成17年(2005)に三潴町と城島町が久留米市に編入したので、現在の三潴郡は大木町のみです。
標高4~5mのほぼ平坦で水田の多い町内を、「堀」と呼ばれるクリーク(溝渠)が縦横に走る景観が特徴的で、堀の面積は町全体の14%を占めています。県内で同じように堀を持つ市町村(筑後市、柳川市、大川市など)の中でも特に堀の密度が高く、全国でも有数の溝渠地帯です。
堀(溝渠)は灌漑・排水・貯水の役割を兼ねています。平坦な沼地に水路を作り、掘削した土を盛り上げた部分を住居とし、洪水時に水を逃がす排水路や干ばつに備えた用水源にもなっており、この地域の農耕文化やくらしを古くから支えてきた構造物です。秋の菱の実とり(掘割に自生する菱の実を「半切り」と言われる大きなタライに乗って収穫する)や、冬の堀干し作業なども、かつてはどの堀でも見られていたそうです。近年は、生活雑排水による堀の汚濁などの問題も発生し、住民とともに堀再生の取組が行われています。
米麦を中心とした農業が主産業で、特産物としてイ草、イチゴ、アスパラガスやキノコ類の栽培、畜産業、イ草加工品である畳表、花筵や久留米絣などの伝統工芸品も生産されています。(参考:福岡百科事典、大木町誌)
中学生の歌声にのせて大木町を紹介するPR動画 この町が好きだよ (大木町公式Youtubeチャンネル)より
大木町から福岡共同公文書館に移管された歴史公文書は451点(令和3年2月現在)で、循環のまちづくりに関する文書や、堀の再生や保全に関する文書などがあるのが特徴です。また、大木町が大川市との合併を協議検討した際の文書もあります。合併はしないことになりましたが、この時の文書は大川市からも移管されており、当時の意思決定の過程を将来の検証にたえうる形でのこす公文書館の使命と、当館が「共同」公文書館だからこそできることを考えていくうえでも重要な資料といえます。
平成17年(2005)大木町は九州で一番先にバイオマスタウン構想を公表し、リサイクルやごみの減量といった循環のまちづくりに取り組んできた自治体です。
九州農政局のバイオマスタウンマップ(大木町が提出したバイオマスタウン構想を見ることができます。)
バイオマスというのは、「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源(石油などの化石燃料を除く)」のことです。化石燃料ももとは有機物ですが非常に長い年月をかけて化石になった限りのある資源です。しかし、バイオマスは、太陽エネルギーを使って水と二酸化炭素から生物が生成するものなので、持続的に再生可能な資源で、さまざまな利用方法があります。木材、海草、生ゴミ、紙、動物の死骸・ふん尿、プランクトンなど様々なバイオマス資源を、原料やエネルギーとして利活用した場合、植物が育つ過程で吸収した大気中の二酸化炭素を、物体(炭素)として固定、また大気中に戻すだけで、増加させないので、気候変動の抑止に役立つとされています。
転機となったのは平成14年(2002)、ロンドン条約に基づいた廃棄物処理法施行令の一部改定で、し尿・浄化槽汚泥等の海洋投入処分の全面禁止(適用猶予期間5年)が決まったことです。それまでのし尿等の海洋投棄処分を速やかに停止し、陸上処理に切り替えることになり、大木町は平成18年(2006)から、家庭の生ごみ、し尿、浄化槽汚泥を循環施設「くるるん」で資源化する事業をはじめました。バケツコンテナ式の生ごみ分別を確立し、その後、プラスチックや紙おむつなども資源化したので焼却ゴミの量は半分以下に減り、施設でのエネルギー(メタンガス)創出と消化液(メタン発酵液肥)の農業還元に成功した事例として、多くの視察も受け入れてきました。
平成20年(2008)3月には全国で2番目の「もったいない宣言(ゼロ・ウェイスト宣言)」を公表し、その年の可燃ごみ組成調査で焼却ゴミの重量比の中で大きな割合(約1割)を占めていた紙おむつをリサイクルする仕組みづくりに着手します。紙おむつの処分(リサイクル)は現在、超高齢社会の日本の廃棄物行政において、大きな課題となっていますが、大木町は福岡県のリサイクル総合研究センターや大牟田エコタウンのリサイクル施設、企業、紙おむつメーカーとも連携して、平成23年(2011)10月に家庭から出る紙おむつ分別回収をいち早くはじめました。年間100tを超える紙おむつが回収され、再資源化されています。(参考:『ごみを資源にまちづくり』中村修,2017年8月,農文協、『月刊廃棄物』日報ビジネス,2019年4月号ほか)
大木町公文書「平成23年度紙おむつリサイクル事業」(1-2-0023751)
大木町公文書「平成23年度ゼロウェイスト関係文書」(1-2-0023750)
大木町公文書「EPR・デポジット(協議会)」(1-2-0030051)
平成22年(2010)、大木町・筑後市・大川市が共同開催した『第18回環境自治体会議「ちっご会議」』では、「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibilities:EPR)」と「デポジット制度」の導入で循環型社会の再構築をめざす ちっご会議決議が採択され、EPRとデポジットの法制化を求める署名活動を行っています。環境保全や温暖化防止は、廃棄物処理等の行政活動だけでは実現できません。自治体内で住民とともに目標を持って根気強く取組むこと、県や近隣市町村とも連携し、全国に向けて発信していくことなど、大木町の取組みから学べることは多いですが、環境や廃棄物の問題は多くの自治体がよりよいあり方を模索し、つながりをつくりながら取り組んでいることがわかる資料です。
おまけ
堀の写真が表紙の『広報おおき』を探して、閲覧室の10年分の広報を確認してみたところ、3月号表紙は、圧倒的な確率で堀干し(体験)の写真です!
大木町のように堀のある地域では、農閑期である冬に、堀に沈殿した堆積物(泥土)をくみ上げる、堀干し・ごみ揚げという作業を行います。ここで【ごみ】というのはこの有機物の栄養をたっぷり含んだ泥土のことを指していて、水田や藺田(イ草を作る田)に客土として入れて土壌改善をおこなったり、肥しに使ったりしていたそうです。堀の貯水量を維持して町内に水をめぐらせ、土も循環させてきた大木町の風土が、循環型のまちづくりの基層にあるのですね。
もちろん、3月以外でも堀は表紙を飾っています。
福岡県立公文書館であり、福岡県市町村公文書館でもある当館では、大木町職員もはたらいています。せっかくなのでコメントをもらいました。